かにみそにっき

作家。美術書などを中心に、本・絵本・映画についてのメモ。

鼻、動かしてますか? 香水-ある人殺しの物語-


香水 ある人殺しの物語 を読みました。
世にも珍しい“臭(匂)い“をテーマにした小説です。




主人公は天才的な嗅覚を持った、人間です。彼は何千何万という、匂いを
嗅ぎ分け、それを頭の中にストックして物や人を完全に記憶することができるのです。
しかし、彼はどこに行っても不気味な存在として、忌み嫌われます。
汗の臭いや香水の匂いだけではなく、人間それぞれが持つ
臭いまで嗅ぎ分けられる彼ですが、当の本人からはその臭いがしないのです。
特別な嗅覚を持たない一般人からは、それが気配を感じず
人間味を感じない悪魔のような存在に感じてしまうのです。



そんな彼はある日、街で今までに嗅いだ事のない匂いと出会います。
それは一人の少女の匂いでした。彼は興奮のあまり少女を殺してしまう
のですが、その事は全く気にしません。
「この魅力的な匂いを作り出したい」という衝動に駆られた彼は
香水師に弟子入りをして、究極の香水を作る大々的な計画を練ります。



彼は才能のない師の元で匿われる形で、次々と傑作を作り出します。
しかし、彼は利益や名誉に一切興味がありません。
ただ、あの匂いを再現して自分の物にしたい、その為の技術磨きに過ぎないのです。



彼はこの後、理想の香水の為に次々と若く美しい少女を殺していくのですが
自分の理想の作品を作りたいだけという、あまりに清々しい理由を知っている
読者にはそれが残酷というより神聖な行為にすら映ります。
ここがこの小説の面白いところだと僕は思います。



非常に古典的な作りなのですが、嗅覚というテーマと本当にそれしか能がない
主人公、大胆な物語の運びという組み合わせ 

それを新鮮なものに変え、痛快さをもたらしていると思います。
特にクライマックスの描写は非常に神々しくて圧巻です。



匂いの描写がとても丁寧で、とにかく終始鼻をむずむずさせて読みました。
視覚や聴覚ばかり上においた日々の生活で、自分がどれほど
嗅覚をおろそかにしていたか思い知らされる
凄い作品です。
映画化もされているみたいですが、ぜひこれは小説で読んで体感して欲しいです。