丁寧な伏線の結晶-ギルバートグレイプ-

あらすじ
アイオワ州の田舎、エンドラに住むギルバート・グレイプ。
彼は亡き父親に代わり、知的障害を持つ弟と過食症の母を
２人の姉妹と共に一家を支える大黒柱。
年に一度通るキャンピングカーを見送るのが彼の恒例行事だったが、
車が故障し、しばらく滞在する事になったベッキーという女性と出会い……

・母と弟
退屈な田舎町、一見チャラいギルバート（ジョニー・デップ）は
映画を観ていくうちに、温厚な人間であると同時に
この田舎町から出る事を諦め、受動的に過ごしているのがわかります。

“留め金で留められている”と語る彼の“留め金”は
知的障害を持ち、目を離すとすぐに高い所に上ってしまう弟アーニー
（レオナルド・ディカプリオ）と過食症で極度の肥満に陥り、家から全く出ない母親。
ギルバートには彼らを残し勝手に町を出る事などできないのです。

・ベッキー
そんな中、キャンピングカーが壊れしばらく町に滞在する事になった
ベッキー（ジュリエット・ルイス）と出会います。
ギルバートのロングへアーに落ち着いた色調の服装に対し、
彼女はショートカットで明るい色調の服を着ているように
ギルバートと対照的な人間として描かれています。

ギルバートは彼女に惹かれ、互いに仲良くなっていきます。
ギルバートに対する何かを示唆するような言葉、問いかけが
会話の中に何度も出てきます。
何もかもを知った上でのような、彼女の振る舞いをみると
メタ的存在として描かれているようです。

・受動的
しかし彼女と出会ってからも、ギルバートはどこか受動的に過ごします。
この映画には、同じ場面のシーンが繰り返し出てくるのですが
ギルバートを軸としたそれらのシーンは、時間の流れを感じさせません。
ベッキーが来てからも、基本的に単調な毎日の繰り返しのように映ります。
しかし周りの人間には、少しづつ変化が訪れます。
それにより時の流れは明確に示されます。ベッキーも例外ではありません。

キャンプカーが直った彼女は明日、アーニーの誕生日に旅立つ事を伝えます。
「引き止めたい？」と尋ねるベッキーに対して、
「好きにすればいい」と答えるギルバート。
彼は最後まで、受動的でした。

・そして
それでもベッキーが去る事に動揺していた彼は
誕生日ケーキをこっそり食べたアーニーに、初めて手を上げてしまいます。
家を飛び出すアーニー。彼を追いかけるギルバート。
そして、物語は終盤へと向かいます……

話としてはどこか地味なのですが、丁寧な伏線があちこちに張られていて
それゆえに妙に心に残るものがあります。
例えば、映画中の“水”にまつわるシーン。
弟のアーニーが上る“貯水タンク”、彼が嫌がる“お風呂”
キャンピングカーが止まる“水辺”などなど
実はクライマックスのあるシーンに、これらが対比的に置かれています。
ハッとさせる類の伏線ではないのですが、小さな伏線が少しづつ重なって
映画に深みを出しているのだと思います。
そしてもう１つ映画を支えているのが、弟のアーニー。
彼を演じるレオナルド・ディカプリオの演技力に脱帽。
事前にディカプリオが出ていると知らなければわからなかったほど
役になりきっています。

物語の上で、唯一引っかかったところが、１つ。
冒頭の家族構成の紹介で、家を出て行ったらしい“長男”。
その後物語の中で全く関わってこないのですが、この設定は
いるのでしょうか？
むしろ蛇足に感じさせてしまうシーンもあるだけにもったいないと思いました。

あまり説明的に語らない映画ゆえに、観る人によって
幅広く受け止められる作品だと思います。
各場面をじっくり観ながら楽しむのがオススメです。