かにみそにっき

作家。美術書などを中心に、本・絵本・映画についてのメモ。

シチリアより愛を込めて シチリア!シチリア!

シチリア!シチリア!スペシャル・エディション [DVD]
ニューシネマ・パラダイスのジュゼッペ・トルナトーレ監督ということで、
久々に映画館で作品を観てきました。公開終了間近ですが感想を。
ネタバレは避けてあります。


あらすじ
ジュゼッペ・トルナトーレ監督が、父親の人生をベースに、故郷シチリアへの郷愁を綴った一大叙事詩。
1930年代から80年代にかけての時代背景とともに、シチリアで生まれ育った少年の成長を描く。
※goo映画の解説から引用




恥ずかしながら、イタリアの歴史に対する知識は疎いので、その方面からはつっつけないです。
とはいっても、この作品は別にドキュメンタリー映画ではありません。
では感動を売りにする映画か?と問われても、違う気がします。
溢れんばかりのシチリアへの愛を感じますが、それ以上に僕は、もっと大きな
“人生”に対する監督なりの“慎重”な“視線”を感じました。






“慎重”といった理由は、この映画が日本人の好きなジャンル分け、という
一言で区分される事を見事に避けていると思ったからです。
この作品はシチリアを通して、“主人公の人生”でも“イタリア人の人生”でも
“シチリアの歴史”でもなく、もっと普遍的な“人間”を描こうとしているのだと思います。
一人の人間を一言で語れないように、この映画も要約がとても難しいです。
(だからあらすじも引用という形をとりました)






だから、主人公に焦点を当てているかと思えば、家族に、街の人間に、
もっと大きな時代の動きに、といったようにコロコロ焦点を変えます。
ただ、芯がぶれていないので目まぐるしさは感じません。
そして時には激しい政治運動や庶民の暮らしといった、当時の社会情勢にも
目を向けます。それらの事実をおざなりにせず、かといってメッセージ性に走りすぎず、
どのシーンも必ずユーモア要素で落として、強く主張しそうなものを相殺しています。
茶化しすぎないギリギリのギャグをつきつけるあたりに、監督の慎重さを感じます。






そういうものが積み重なり、シリアスにもギャグにも感動にも恋愛にも
家族愛にもよりすぎず、物語は進みます。それでも僕は淡白だとは思いませんでした。
それはくどいカットがないテンポの良さもありますが、
それがリアルな“人間”を描いているからだと思いました。
シチリアの半世紀を2時間半にした世界で、鳥瞰的な視点からみた結果、
自然と偏りが無くなった、そんな気がします。






それでも、気になった点が二つあります。
映画ならではの面白さとして、ファンタジー要素が
スパイスとして組み込まれてはいるのですが、これがちょっと残念でした。
作中、3つ連続で石を当てると黄金を隠した洞窟が開く、という伝説を持つ岩山
が出てくるのですが、これが僕にはニューシネマ・パラダイスを意識するあまり
ねじ込んだ感が否めませんでした。



もうひとつは邦題。原題はBAARIAというシンプルなものなのですが、
邦題はシチリア!シチリア! 
監督が慎重に拭おうとした、押し付けがましい感動の
臭いがプンプンします。
捻れとはいいませんが、!はないでしょう……









監督視点の“当時のシチリア”を観ていると、
今の日本の持っているものを持っていなくて、もっていないものを持っている
真逆の世界に見えました。そのくらい強く映って、カルチャーショックを受けた
かのように最初は、映画に入り込めなかったほどです。
イタリア映画はたくさん観てきたのに不思議でした。
ただ、それも最初だけでした。日本人である僕がそれでも入り込めたのは、
これが映像作品ではなく、もっと普遍的な“映画”という芸術作品だからであり、
その違いへのこだわりに、僕はシチリア愛と同じくらい、監督の強い映画愛を感じました。