かにみそにっき

作家。美術書などを中心に、本・絵本・映画についてのメモ。

瞬きから生まれた映画-潜水服は蝶の夢を見る-

潜水服は蝶の夢を見る [Blu-ray]

あらすじ
雑誌編集長のジャン=ドミニク・ボビーは、ある日ドライブの途中で意識を失い、昏睡状態に陥ってしまう。
長い眠りから覚めた彼は、原因不明の全身麻痺“ロックトイン・シンドローム”にかかり
潜水服を着ているように、一切の身動きがとれなくなり声も出せなくなってしまった事を知る。
同名の自伝本をもとにした実話を元にした物語。



・絶望
耳は聴こえ目も見えるが、こちらから一切相手に意思を伝えられないジャン。
心の中で皮肉を呟いても、医師達には何も届かない-----
挙句の果てには、目の潤いを保つため右目も縫われてしまう。
ストーリー序盤、そんな彼の視界から覗く世界は一方通行であり
一切の自由がきかない絶望的な世界でした。





・死にたい
彼を救いたいと願う言語療法士マリーの提案で、
彼女の読み上げたスペルを瞬きにより選択し、会話が出来るようになります。
しかし、それは情報伝達方法の末端とも言うべき途方もない行為。
妻や友人と会い、つたない会話を続けても依然として彼は絶望を潜り続けます。
そしてマリーに「死にたい」という気持ちを伝えてしまいます。





・麻痺していないもの
絶望の果て、彼はある事を思いつきます。
左目のほかに、唯一麻痺していない想像力と記憶をつかい、
瞬きの会話を使って自伝を出そうと考えたのです。
それによりこの“潜水服”から抜け出そうと……







・感想
映画的盛り上がりはなく、ストーリーは静かに幕を閉じます。
自伝をもとに描かれたノンフィクションであり、
フィクション的な面白さを求めて構えると、ゆったりしすぎていて
肩透かしを喰らってしまうのは否めません。
ストーリーの起伏より、ジャンの“視点”を自分に置き換え
追体験するように鑑賞すると、色々考えさせられると思います。


この物語の肝であると同時に、“フィクション”である
ジャンの“想像の世界”は詩的に美しく描かれていますが、
彼が思い描いた世界は、果たしてこの程度だったのでしょうか。
(決して映像が悪い、というわけではありません。)
それを知るすべはありません。
ですが僕には、彼の頭には他人により映像化など出来ない、
もっと素晴らしい世界が広がっていた
、そんな気がしてなりません。



〜追記〜
原作である書籍版も読んでみました。
映画がとても忠実に再現されていたのがよくわかりました。
映画と書籍、合わせて手にとることをおすすめします。
潜水服は蝶の夢を見る
潜水服は蝶の夢を見る


・関連作
海を飛ぶ夢 [DVD]
海を飛ぶ夢 [DVD]
実在した全身麻痺の人間を扱った映画。
内容は似ていますが、“尊厳死”というテーマが織り込まれています。
名作なのでこちらもぜひ。