かにみそにっき

作家。美術書などを中心に、本・絵本・映画についてのメモ。

映画-バスキア-

バスキア [DVD]
バスキア [DVD]

ジャン=ミシェル・バスキアを知っていますか?
ニューヨク生まれのグラフィティ(落書き)のような絵で一斉を風靡し、夭逝した画家です。
Life Doesn't Frighten Me
これは本の表紙ですが(クリックするとamazonに飛びます)、こんな感じの絵をたくさん描いています。
グーグルのイメージ検索で絵をみてみると
大半の人が、“子供の落書き”にしか見えないと思います。
そんなとこも含め、僕はエネルギッシュな彼の作品が大好きです。
これこれこういうところがすばらしい、なんて
生意気に講釈をたれる気はありません。
もちろんそういう作品の楽しみ方もありますので、それ自体は否定はしません。
でも、バスキアの作品に対しては
僕は、“感覚的に楽しみたい”という思いがあります。




さて、幸か不幸か“講釈をたれる人間”の間に揉まれ
トップスターになったバスキアですが、
そこには若くして亡くなったトップスターにはつき物の、
“テンプレート的な”苦悩や葛藤があったのです。
それを描いたのがこの映画“バスキア”。




感想を述べる前に、なぜ僕が“テンプレート的という”皮肉な言葉を
“”を使ってまで強調したのか。
それはずばり、映画が見事なほど
“テンプレート止まり”だったからです。



作家の自伝物って、話の起承転結に必ずといっていいほど
苦悩や葛藤が描かれています。観る側もある程度の
苦悩・葛藤ボーダーラインを無意識に引いていると思うんです。
どのように刺激的に、あるいは示唆的に表現して、
観る者を唸らせボーダーを飛び越えるかが、監督の力量だと思います。
はっきり言うと、それが出来ていません。



というわけで、観終わった率直な感想はなんだか終始退屈。
だから駄作、と言ってしまうのは簡単ですが
それはどうも惜しいのでもうちょっと食いついてみたいと思います。
せっかく、夭逝の画家バスキアという魅力的な題材、
トム・ウェイツボブ・ディランデビッド・ボウイといった豪華な音楽、
そして同ディヴィッド・ボウイを始め、ゲイリー・オールドマン 
(“レオン”や“ハリー・ポッター”シリーズのシリウス・ブラック役)、
デニス・ホッパー(“イージー・ライダー”、“ブルー・ベルベッド”)といった
豪華俳優人という3拍子がそろっているのですから。




この映画の退屈の原因は大きく2つあって、どちらも監督に関係すると僕は推測します。
まず一つは、監督の個性。
監督は、前回取り上げた潜水服は蝶の夢を見る、と同じジュリアン・シュナーベル
“潜水服〜”は“バスキア”よりずっとあとの作品ですが
見比べると、ぼんやり監督の特徴が見えてきます。
どうやら、シュナーベル監督は白黒つけない曖昧な表現を好むみたいです。



感覚的で詩を読むようなニュアンスの表現、例えば
バスキアの見上げた青空にダブらせた、サーファーの映像、
バスキアと恋人のやりとりに挿入された、白黒のアニメーション。
これらはおそらく監督の感覚で挿入され、そこから意味を読み解く
というより、こちらも感覚で受け止めるような、
文章でこと細かに解説したとたん、サムくなる表現です。
こういう表現はシャレていて、監督のセンスが遺憾なく発揮されています。



対して、示唆するような表現。これがどうも監督は苦手なようで。
例をあげると、
知名度も上がり、金銭的に裕福になるにつれ、友人や恋人が離れ心が貧しくなったり、
よりいっそう人種差別に敏感になる様子が描かれるシーン。
これらは何か“含み”を持って描かれているというよりも、ストレートに描かれすぎていて
“バスキアの”苦悩というより“ありがちな”苦悩止まりで、
ボーダーを越えないままこちら側に伝わってきます。



“潜水服〜”は原本から実に詩的な表現を多用した話だったので、
監督の能力とぴったりフィットしたのでしょう。
ですが、“バスキア”ではどうも上手く嵌らなかったようです。



もう一つは、監督の立場。
シュナーベル監督は、生前のバスキアと交流があったらしいです。(監督も画家として描かれています)
それゆえに忠実さへの“こだわり”が強すぎて、慎重につくりすぎてしまったのではないでしょうか。
(その割に、同じくバスキアと親しかった、同じグラフィックアートの巨匠、キース・ヘリングはいなかったような……)
もともと、誇張が得意そうな監督ではない気がするので、作品の消極さに
拍車をかける結果になってしまった気がします。




原因を散々つつき退屈、退屈言いましたが、
見所はもちろんあります。それは、ディヴィッド・ボウイ演じる
ポップアートの旗手であり、マルチ・アーティストのアンディーウォーホール
変人で高飛車で強烈なキャラクター性、一見の価値ありです。
……彼に、バスキアのインパクトが食われている感もありますが。



映画としては僕にはしっくりきませんでしたが、バスキアに対する興味が
薄れたわけではないので、結果オーライかなとも思います。
去年12月にバスキアのすべてというドキュメンタリー映画が公開されていますが、
DVDが出たら、そちらも観たいと思います。
ジャン=ミシェル・バスキア
ジャン=ミシェル・バスキア
作品数も多いので、いろんな画集を眺めてみることをおすすめします。
(ちなみに、過去の展覧会図録はどれもこれも値段が高騰していて入手困難です。。。)