組み替えられた“臨場感”-ザ・ローリング・ストーンズ　シャイン・ア・ライト-

ローリング・ストーンズ――――といえば、ベロを出した唇のロゴでお馴染みの
超有名バンド。僕はベストアルバムを持っている程度の浅いファンですが、
この映画には驚き興奮しました。

あらすじ、というか概要。

ザ・ローリング・ストーンズ　シャイン・ア・ライト
ストーンズの2006年のライブをあらゆる機械を駆使し撮影し、
舞台裏や過去のインタビューを織り交ぜたドキュメンタリー映画。
監督は、「タクシードライバー」*1「レイジングブル *2」「グッドフェローズ *3」「カジノ*4」など
ロバート・デ・ニーロとのタッグで有名なマーティン・スコセッシ。

この作品、監督と彼率いるスタッフ達の異常なまでの撮影、編集センスと
平均年齢60を超えたストーンズのメンバー達の異様な若さが融合した
映画という作品、ライブという作品に仕上がっています。
ストーンズ側と監督側、二つの観点で作品を語ってみたいと思います。

・ストーンズ
まず彼らの老いを“感じる”若さ。
メンバーは全員皺くちゃ。みていて歳相応の荒い息遣いも感じます。
しかし、いざ歌いだすと一転。若々しくエネルギッシュなファッションが
クールに決まり、セクシーな腰の動きと、６０代とは思えない元気な声。
下手な若者よりずっと若々しくて力強いです。
リーダーのミックジャガーだけでなく、メンバーそれぞれがもう若々しい青年のような元気さ。
特にキースリチャーズのタバコを吹かしながらマイクに向かうシーンは
ガキっぽさと年が醸し出す深みがシンクロして痺れました。

演奏シーンもそうですが、より一層若さを感じたのが、
親子ほど歳の離れたゲスト達と一緒にセッションする姿。
同年代の友達、恋人といわれても違和感がないほど若々しく映るミックジャガーに驚き。
大先輩を横にして歌う若いゲスト達も、尊敬の念はもちろんあるのでしょうが
それを上回って友達感覚で楽しそうに歌っているのがとても印象的でした。

・スコセッシ
次に、そんなストーンズ達の魅力を存分に伝えた監督の力量。
ライブの熱狂を伝えるために、カメラの配置や演出に徹底的にこだわった結果、
ただのライブ映像ではなく“ライブそのものの臨場感”を極限まで再現しています。

臨場感を伝える……これはとても難しいことだと思います。
ただ観客目線だけを意識して撮って表現できるような単純なものではありません。
そこで彼は、演出という“非臨場感”を織り交ぜ、彼自信の巧みなセンスと
技術により組み替える事によって、新たに臨場感を作り直しています。

例えば、彼はメンバーを後ろから撮ったり、斜め上から撮ったりと
観客からはあり得ない視点を映画に盛り込んでいます。
ライブ映像なら珍しくもない事ですが、かれはこの“非現実的視点”を
“演出効果”として徹底的に純化しています。
これって簡単そうに思えますが、そうとう気を配らないと観ている人間に
「ああこれは所詮“撮られた”もの」なんだと無意識のうちに思わせてしまう、
そういうものだと思います。この辺の配慮がさすが映画監督です。

そして曲の間に挟まれる、若き日のストーンズのインタビュー映像。
これは、完全に“非現実的な演出”である事をつつみ隠さず、組み込んでいます。
しかし、過去と現在の対比として映像が挿入される事により
私たちは“ストーンズの培ってきた歴史”を肌で感じます。この演出が
ライブに駆けつける程のファンたちと私たちとの、“隔たり”を壊し
同じ目線で参加できるよう道を切り開く役割となっていくれています。
もちろんこれも、ライブを邪魔せず効果的な尺とタイミングと映像を
組み込む、高度な編集技術が問われていると思います。
無論、それは見事に成功してます。