かにみそにっき

作家。美術書などを中心に、本・絵本・映画についてのメモ。

やるせない孤独 -真夜中のカーボーイ- 

真夜中のカーボーイ (2枚組特別編) [DVD]

あらすじ
テキサス生まれのジョー(ジョン・ヴォイト)は、カーボーイ姿に扮して、
憧れの都会、ニューヨークに出てきた。しかし都会の人間には誰にも相手にされず、
街を彷徨っていた。そんな時、足が不自由なラッティ(ダスティン・ホフマン)という男と出会う……


・憧れと記憶とラジオ
バイト先に別れを告げ、田舎のテキサスから悠々とニューヨーク行きの
バスへ乗り込むジョー。頻繁に流れる主題歌、“Everybody's Talkin' (うわさの男)”が
彼の心境を表しています。
しかし、町のショーウィンドウ、バスの窓から眺める景色、夢の中……
随所で大好きだった祖母や、恋人との思い出がフラッシュバックされます。
そこには心残りや良き日の思い出というよりも、何か物寂しさを感じさせます。
そのたびに彼は腕に抱えたラジオに耳を傾けます。
バスがニューヨークについた事を知らせたのは、窓の景色ではなく
ラジオが拾ってきたニューヨーク・ラジオの音でした。






・“孤独”
憧れの大都会についた彼は、さっそくカウボーイ姿で道行く
金持ちそうなマダムに声をかけていきます。しかし世間の風は厳しく
軽くあしらわれてしまいます。ようやく一人の人妻と関係を持て、ジゴロとしてやっていけると
思うと、マダムに泣きつかれた挙句、逆にお金を取られてしまいます。


早くも都会への理想を挫かれた彼は酒場で
ラッティ(ドブ公)と呼ばれる、脚の不自由な男と出会います。
彼から紹介して貰った街の売春業を仕切るボスの元へ足を運んだ、ジョー
でしたが、ボスの部屋にあるキリスト像を見て、またもや過去の記憶がよみがえり
飛び出してしまいます。紹介料を受け取ったラッティは姿を消していました。


フラッシュバックした何か後ろめたい記憶、ボスの“孤独”という言葉に
敏感に反応する姿、依存気味にラジオを大切に抱える姿、
鏡に向かって自分へと語りかけるシーン、
地元テキサスの人たちのどこかよそよそしかった態度……
夢みた大都会に身を投じる事で抜け出そうとした孤独は、
皮肉な事に、拍車をかけて彼の周りにつきまといます。






・最低な暮らし。最低な友。
何をしてもうまくいかず、ついに金がそこをついたジョーは
ある日、偶然ラッティと再会します。似たような境遇の二人は
電気も通らず、暖もない彼のボロアパートで一緒に過ごす事になります。
食べ物は盗み、衣類は盗み、仕事まで盗んで得ようとする……
社会の外れ者になった二人は、そんな最低な生き方で日々を暮らします。
いつの間にか、孤独に飢えた二人の間には不思議な友情が芽生え始めます。
大事にしていたラジオを、熱を出したラッティの為に質に入れるシーンが
象徴的です。






・パーティ
そんなある日、カフェで二人が食事をしていると、変わった姿の二人組から
パーティの招待状を貰います。
そこは麻薬でぶっ飛んだ人間達のサイケデリックな集まりだったのですが、
その中の人妻に声をかけ、ジゴロとして関係を持て、ついにお金を得る事にも成功します。
満足した人妻から、友人への紹介も得られ、ようやく当初夢に抱いた生活に戻れる、
そう思った矢先、ラッティの体に異変が起こるのでした……






アメリカンニューシネマが持つ、何ともやるせない後味。
教訓めいたものはなく、考察や裏を読むような映画ではないです。
かっこ良さとか感動とかない、そこが妙に泥臭く、人間臭いのがこの作品の魅力でしょうか。
ラッティ役のダスティン・ホフマンの演技は、のちのクレイマー、クレイマー [Blu-ray]レインマン [Blu-ray]などに繋がっている気がします。


真夜中に、“小さな”ブラウン管で酒を飲みながら、
またはフラッと訪れたレイトショーでふと観たくなる、そんな映画でした。
良い意味で、時代を感じさせる映画でしたが、そこを現代に合わせて
リメイクしたら面白そうですね。






関連書籍


真夜中のカーボーイは取り上げられていませんが、
アメリカン・ニューシネマに興味を持った方は、ぜひ一読をおすすめします。