かにみそにっき

作家。美術書などを中心に、本・絵本・映画についてのメモ。

褒め上げ映画批評 ミニミニ大作戦(1969年版)

ブログの書き方も忘れるほど。半年振りの更新です。

ミニミニ大作戦 スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]

=あらすじ=
刑務所から釈放されたチャーリーの元に、大規模な強盗計画が渡された。
イタリアトリノに輸送される金塊を、渋滞にまぎれてかっさらう!
選りすぐりのメンバーと、逃走用のバス、ワゴン、そして3台のミニクーパーと共に彼らはイタリアへと向かう。


オススメの映画は?と聞かれて、いっつも頭から抜け落ちてしまう映画。
知名度もそこそこあり、同名のリメイク版も出ているのにどこか陰が薄い印象。


それは置いておいて......
HDで観たのですが、映像が鮮やかで40年以上前の映画とは思えないほど綺麗。
ミニクーパー始め、ところどころで主張してくる赤青白のイギリス国旗配色にうっとり。
爽快でテンポも良く構図もシャレ乙な反面、人間関係の描写は非常に淡白なのですが、
マクロに写すシーンが多いのでさほど気にはならないです。
というか、この映画の主人公は登場するミニクーパー達といっても過言ではありません。
後半の生き物のようになめらかに動く姿は、後に“カーズ”に多大な影響を与え……てそう。
ライダーやマンが物語終盤でようやく戦い始めるように、この映画も
ミニクーパーが美味しいところと、至福のひとときをかっさらっていきます。
オシャレでくどくないカーチェイス。

反面、車を壊したり崖から落としたりするシーンが顕著に観られる辺り
「おいおい“ミニミニ”大作戦のくせに、車を粗末に扱いすぎだろ!」
と言いたくなりもしますが、ミニクーパー押しなのは邦題だけで、原題は
"The Italian Job"
ミニクーパーを魅せる映画ではなく、ミニクーパーも用いて
“イギリス万歳”な映画なので実にタイトル通りの映画なんですよね。


観終わった後なんだかウキウキする映画。
新しい物好きなオシャレさんにこそ、古臭そうと思わず手に取ってもらいたい一作。
This is the self-preservation society 〜♪

褒め上げ映画批評 悪魔のいけにえ

悪魔のいけにえ [Blu-ray]



テキサスの田舎に帰郷した5人の若者が、人の皮をかぶったレザーフェイスに襲われる。



スプラッター映画の元祖として、今も人気の高い悪魔のいけにえ
ストーリーはあってないようなものですが、ざらついた映像が醸しだす不気味さは、
今見てもゾクッときます。
古い映画なので、突っ込みどころは満載で、時々怖いはずのシーンが
シュールで笑えるたりするのですが、それでも
常につきまとう緊張感と、チェーンソーを持ったレザーフェイスに追いかけられるスリルは秀逸。
こんな映画を作り上げた監督の変態性と、認めざるを得ない画面作りに見事に参ってしまいました。
意外にもグロテスクなシーンが少ないのもポイント。


あらゆるホラー映画で今も引用されているシーンが詰まっているので、
映画好きは一度は観てみる価値があると思います。



〜関連作品〜
テキサス・チェーンソー [DVD]
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リメイク版。

褒め上げ映画批評 ニューシネマパラダイス

ニュー・シネマ・パラダイス [Blu-ray]

ある夜、男の元へ母親から一本の電話が来る。
「アルフレッドが死んだ」
男はベッドで少年時代を回顧する……

イタリア南部の田舎町。少年トトは、映画好きの元気な少年。
父親を失った彼にとって、パラダイス座の映画技師アルフレッドが
友人であり、父親であり、師であった。
映写室に入り浸り、アルフレッドから技術も教えて貰ったトト。
しかしある日、悲劇は起こってしまう……

この映画には2つの要素があります。
観客が居てこその、映画。そこを含めての“映画賛歌”がまず1つ。
いきいきと描かれたパラダイス座に集まる観客達は本当に
映画が持つパワーを感じさせてくれます。



もう1つは、映画愛を飛び越えた様々な“愛”の描写。
それは押し付けがましくなく、映画のいたるところに散りばめられています。
この“愛”こそが、人々の心を掴んで離さないこの作品の真のテーマだと思います。



そしてこの映画を語る上で避けられないのが、音楽。
エンリオ・モリコーネのBGMは、映画史上に残る傑作です。
この音楽無しには、この作品は成り立たなかったと言っても過言ではありません。



一人の少年の少年時代から現代までを観ていると、
観終わった後に壮大な年月の重みを感じます。
本作には、劇場公開版と尺が伸びた完全版がありますが、
まずはテンポの良い劇場公開版をオススメします。



〜関連作品〜
シチリア!シチリア!スペシャル・エディション [DVD]
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同監督、同音楽担当の最新作。
こちらも壮大な年月を感じられます。

褒め上げ映画批評 ダーティーメリー、クレイジーラリー

ダーティ・メリー クレイジー・ラリー [DVD]

アメリカンニューシネマの臭いが漂う、走って逃げる爆走映画。
レーサーの夢を挫折した男が銃を使わないスマートな強盗を行い、
大金を手にするが、こっそり車に乗り込んでいたラリーにより
逃亡計画は少しづつ狂いだす……



ただ走る。ストーリーなんてあってないようなもの。
コンセプトが似ているバニシングポイントと比べるとやや陽気で、ただ走るだけ、
という内容に軽さを感じますが、あちらが孤独な逃亡だったのに対して、
ダーティーメリー〜は三人の逃亡劇。どことなくロードムービー的で
この軽さこそが売りだと思います。
警察側も個性があり、ヘリコプターを急降下させ車にぶつけるシーンは
CGではないからこその凄みを感じさせます。
そして、衝撃のラスト。ニューシネマ独特の虚無感は癖になりそうです。



何も考えずに楽しめる馬鹿映画は、今日に至っても量産され続けていますが、
この時期に時代が生みだした、それだけではおさまらない何かは
記憶に何かをピン止めしてくれる。そんな気がします。



〜関連作品〜
バニシング・ポイント [Blu-ray]
非常に良く似ていますが、観て損はない傑作です。

映画-八日目の蝉-とディープエンドオブオーシャン。

八日目の蝉 (中公文庫)
劇場最新作、観てきました。
ちなみに、原作は未読です。


〜あらすじ〜
ある夫婦の元に産まれた赤ん坊の恵梨菜。
彼女は、父親の不倫相手に誘拐され4年間、その女性の下で育てられます。
やがて女性は身元がばれ、逮捕されるのですが、
恵梨菜は今まで誘拐犯を本当の母親と思って育ってきたため、
実の家庭に戻ってもなじめず、ギクシャクした関係で二十歳になります。
そんなある日、彼女の下にフリーのライターが現れ、
誘拐事件について取材を求めてきます。

物語は、20歳の恵梨菜と
誘拐した母親と過ごした4年間が交互して展開されていきます。
ちょっと転びどころを間違えたら、安っぽい自分探し映画になりそうな、
そんな危うさに、ヒヤヒヤしながら鑑賞していましたが、
こういう題材の作品としては、良い感じに話を締めた良作でした。


2時間半という尺に、長さも駆け足も感じなかったのは見事。
昨今の安っぽいテレビ配給映画の王道パターンはしっかり避けて、
邦画独特の、なんだかじめっとした描写が、題材と上手い事フィットしていました。






俳優や個々の見せ方について、もっと感想を書くのも良いのですが、
実はつい最近、“ディープエンドオブオーシャン”という、
題材がそっくりな洋画を見たので、
そちらと“八日目の蝉”を比較してみたいと思います。



ディープ・エンド・オブ・オーシャン [DVD]ディープ・エンド・オブ・オーシャン [DVD]
ミシェル・ファイファー,トリート・ウィリアムズ,ウービー・ゴールドバーグ,ジョナサン・ジャクソン,ウール・グロスバード

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〜あらすじ〜
幸せな家庭に生まれた兄弟と妹。その次男坊、3歳のケリーは
母親に連れられた同窓会で、彼は突然行方をくらまします。
それから9年後、家族が引っ越した先に、サムと名乗る少年が
現れ、やがて家族はその少年が誘拐されたケリー本人だと知ります。
ケリーは、めでたく一家のもとで生活するのですが
誘拐前の記憶が全くない彼は、実の両親とも
兄妹ともうまくいかず……


「他人に育てられた実の子供が年をとって戻ってくる」
という、物語の導入はそっくりなのですが
八日目の蝉”と“ディープエンド〜”を見比べると、
カタルシスの方向が違うことがわかります。



ディープエンド〜”は、育てられた家庭と実の家庭という、
“二つの家庭”に対する“登場人物たち”の“葛藤と苦悩”を、



それに対して、“八日目の蝉”は
事件により引き裂かれた“家族愛、日常”に対する
“主人公”の“苦悩と成長”
を描いています。



ディープエンド〜”がしっとりした作品だったのに対して、
八日目の蝉”がスカッとした後味だったのは、
似た題材を描いているだけに、なかなか興味深い差異でした。
ぜひ、両方観てみる事をオススメします。




〜まとめ〜
劇場で鑑賞していて、一番印象に残ったのが
主演の井上真央と、恋人役の劇団ひとりがキスするシーンで、
左の席のおじさんがものすごい舌打ちをしたこと。
かと思うと、途中でハンカチを取り出して涙を抑える
(ゴシゴシしてたので、おそらく)純情さ。


何が言いたいかというと、下心丸出しで観ても
感動できるって事です。
以上、超蛇足。

コヤニスカッツィ

コヤニスカッツィ [DVD]
ゴッドファーザー”の監督、フランシス・フォード・コッポラ監修による
7年の歳月をかけた、ドキュメンタリー映画。
コヤニスカッティとはホビ族の言葉で、「均衡を失った世界」


この映画は、音楽と映像のみで構成されています。
ゆえに内容は非常に漠然としたもので説明しづらいのですが……
都会の人ごみや、崩れ行くビル、空撮で眺める首都高の動き、
それらを非常にマクロな視点から映し出しています。
90分、台詞もない映像を観ていると、若干眠くはなりますが
人間が人間を、働き蟻として眺めている不思議な感覚に陥ります。


3.11以降、CGで表現された超常現象に何か虚しいものを感じつつあるこの頃。
30年前に撮られたコヤニスカッツィは、難解ながらも
普遍的なテーマで撮られていて、美しいながらも不気味な現実を
古臭くなく、新鮮に感じる事が出来ます。
考えさせられる、というより新しい視点に出会える、そんな映画です。


〜関連作品〜
ポワカッツィ [DVD]ナコイカッツィ [DVD]

カッツィ3部作として、もう2作品あるのですが
2部から、3部のスパンがゴッドファーザーを彷彿とさせたり。

こっけいな いんちきな くるった あそび 映画-ファニーゲーム-

僕が映画で一番嫌い“お約束”は、
何かくる!と思わせて、勘違いだった、と思わせてやっぱりきた!
な肩透かしを挟んで油断させるドッキリです。



例をあげると、有名なSF映画“エイリアン”。
宇宙船の中でエイリアンから逃げ、倉庫(だったかな)に隠れるシーン。
何かが近づいてきてる……もしやエイリアン?
ここで思わせぶりに緊迫感のあるBGMが。くる……!!
……と思ったらなーんだ猫でした。一安心。
ホッとして油断したら、いきなりエイリアンがババーンと登場。
あー、ビックリ。



僕はこの“お約束”にとってもひっかかりやすく、
また制作陣が泣いて喜びそうな驚き方をしてしまう
“優良視聴者”です。だからこのパターンは大嫌いです。




そんな個人的な意見を前置きに。。。






ファニーゲーム [DVD]

あらすじ
ある夏の日、別荘にやってきた親子3人(+犬)の元へ
卵を貰いにきた、穏やかそうな二人の青年。
たわいもない会話の後、彼らは突然態度を変え、家に居座ろうとする。
厚かましい態度をとる二人をどかそうとする父親。
逆切れした二人はゴルフバッドで父親を殴り始めて……

オーストリアの監督、ミヒャエル・ハネケによる理不尽サイコホラー映画。
「ただ、ひたすら不愉快になる映画」
という噂をたびたび聴いていたので、身構ながら見ました。
あらすじが気になって興味本位で観たのですが、この手のは非常に苦手なので。



たしかに、理不尽。どこまでも理不尽。徹底して理不尽。
funnyの意味を全部備えています。
しかし、観終わってみると、実に“親切”に作られていて後味は悪くありませんでした。
(これ見よがしに人にすすめたいとは思いませんが。)



以下、ストーリー進行上のネタバレを含みます。








なぜ親切か。理由は3つあります。




1つは残酷描写を直接映さないこと。
ゴルフバッドで殴る、母親を全裸にする、子供を銃で撃つ……
理不尽に行われる、見るもおぞましい光景。
実際に直視することはなく、常に画面外で起こなわれます。
ですから我々は聴覚と“行為の結果”をもってでしか、
その残虐さを知る事ができません。
これにより想像力をかきたてられ、残虐性が増すわけです。
この手法は、タランティーノ監督の“レザボア・ドッグス”、
その元ネタのブライアン・デ・パルマ監督の“スカーフェイス
の拷問シーンが有名です。



グロテスクな映像で安易に恐怖を煽らない
という意味では、
非常に目“には”やさしい、紳士的な映画です。





2つめ。冒頭で語った、ドッキリ手法がないこと
来る?来ない?の緊迫感がない、
というより、映画のみせ方が真逆。
いやらしいくらい、じとじとゆっくりみせるんです。



例をあげるますと、突然リビングで子供が射殺され
(この“突然”は、画面外で行われるのでこちらをビクリとはさせません。)
家から急に立ち去ってしまう青年たち。
残された母親が、TVのF1実況をボーゼンと眺める。
これが、ロングショットで、数分。BGMはもちろん無し。
テレビを消して、またしばらくボーゼン。
目の前で倒れた息子(もちろん直接は映しません)
に意識をやり、悲しみに襲われ母親が泣きじゃくる。



そもそもドッキリ系ホラーとは
“ベクトル”が違うのが良くわかります。






そして3つめ。安心スッキリ、メタ演出
青年の
「ここで終わるには、劇場映画としての尺が足りない」
といったメタ発言に加え(確かに足りない)、
かなりのネタバレになるので、詳細は避けますが
映画を根底から否定するような、すさまじいメタ演出
こういう演出は、コメディに許されます。
コメディは喜“劇”であり、フィクションである事を
隠す努力は必要ないわけです。
逆に言えば、リアリティを殺す“フィクション宣言”です。



「散々生なましくやってきて、それはありかよ」
と、この辺りが非常に賛否両論を呼んでいるみたいですが、
僕はこの演出によって、非常に“ホッと”し、
なんだか清々しい後味で見終えることができ、、
「もう一度、見てもいいかな。」なんて、
リピーター精神まで芽生えました。
(このメタ演出までは、そんな気持ちは微塵も無かったです。)



ぶっとんだストーリーに融合された、トンでも展開(ラスト間近ならなお良し)
こそがカルト映画をカルト映画たらしめる“肝”でもあり、
この映画が、カルト的人気を呼んだ大きな要因だと思います。








〜まとめ〜
内容がボンと置いてあって、あとは観客を突き飛ばす。
この手の映画にはそんなものが、星の数ほどあります。
でもこの映画はその手のものとは、一線を画しています。
「心配しないで。落ち着いて。あくまでフィクションだから。」
と手をしっかり握って、突き飛ばさずに映画を案内してくれています。
……ただし理不尽な暴力を、これでもかと。
ですが、メタ表現で映画を再確認させる“余裕”を持たせる事で、
こちらも監督が投げかけた、不快感で終わらないメッセージを探れるわけです。



わざわざブログで取り上げたくなったのは、あくまで監督の主張や
“遊び心”がおふざけで終わらず、理解に値すると思ったからです。
(それ相応の、踏みたくもない場数を踏んだ上での評価でもあります。)
が、ショッキングな内容であることに変わりはないので、
オススメはいたしません……



〜関連映画〜
ファニーゲームU.S.A. [DVD]
同じ内容と同じ監督で取り直したらしい“ファニーゲームU.S.A”という
続編(リメイク?)もあるみたいです。



〜記事で紹介した映画〜
エイリアン [Blu-ray]
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レザボア・ドッグス [DVD]
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スカーフェイス 【プレミアム・ベスト・コレクション1800円】 [DVD]
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