かにみそにっき

作家。美術書などを中心に、本・絵本・映画についてのメモ。

こっけいな いんちきな くるった あそび 映画-ファニーゲーム-

僕が映画で一番嫌い“お約束”は、
何かくる!と思わせて、勘違いだった、と思わせてやっぱりきた!
な肩透かしを挟んで油断させるドッキリです。



例をあげると、有名なSF映画“エイリアン”。
宇宙船の中でエイリアンから逃げ、倉庫(だったかな)に隠れるシーン。
何かが近づいてきてる……もしやエイリアン?
ここで思わせぶりに緊迫感のあるBGMが。くる……!!
……と思ったらなーんだ猫でした。一安心。
ホッとして油断したら、いきなりエイリアンがババーンと登場。
あー、ビックリ。



僕はこの“お約束”にとってもひっかかりやすく、
また制作陣が泣いて喜びそうな驚き方をしてしまう
“優良視聴者”です。だからこのパターンは大嫌いです。




そんな個人的な意見を前置きに。。。






ファニーゲーム [DVD]

あらすじ
ある夏の日、別荘にやってきた親子3人(+犬)の元へ
卵を貰いにきた、穏やかそうな二人の青年。
たわいもない会話の後、彼らは突然態度を変え、家に居座ろうとする。
厚かましい態度をとる二人をどかそうとする父親。
逆切れした二人はゴルフバッドで父親を殴り始めて……

オーストリアの監督、ミヒャエル・ハネケによる理不尽サイコホラー映画。
「ただ、ひたすら不愉快になる映画」
という噂をたびたび聴いていたので、身構ながら見ました。
あらすじが気になって興味本位で観たのですが、この手のは非常に苦手なので。



たしかに、理不尽。どこまでも理不尽。徹底して理不尽。
funnyの意味を全部備えています。
しかし、観終わってみると、実に“親切”に作られていて後味は悪くありませんでした。
(これ見よがしに人にすすめたいとは思いませんが。)



以下、ストーリー進行上のネタバレを含みます。








なぜ親切か。理由は3つあります。




1つは残酷描写を直接映さないこと。
ゴルフバッドで殴る、母親を全裸にする、子供を銃で撃つ……
理不尽に行われる、見るもおぞましい光景。
実際に直視することはなく、常に画面外で起こなわれます。
ですから我々は聴覚と“行為の結果”をもってでしか、
その残虐さを知る事ができません。
これにより想像力をかきたてられ、残虐性が増すわけです。
この手法は、タランティーノ監督の“レザボア・ドッグス”、
その元ネタのブライアン・デ・パルマ監督の“スカーフェイス
の拷問シーンが有名です。



グロテスクな映像で安易に恐怖を煽らない
という意味では、
非常に目“には”やさしい、紳士的な映画です。





2つめ。冒頭で語った、ドッキリ手法がないこと
来る?来ない?の緊迫感がない、
というより、映画のみせ方が真逆。
いやらしいくらい、じとじとゆっくりみせるんです。



例をあげるますと、突然リビングで子供が射殺され
(この“突然”は、画面外で行われるのでこちらをビクリとはさせません。)
家から急に立ち去ってしまう青年たち。
残された母親が、TVのF1実況をボーゼンと眺める。
これが、ロングショットで、数分。BGMはもちろん無し。
テレビを消して、またしばらくボーゼン。
目の前で倒れた息子(もちろん直接は映しません)
に意識をやり、悲しみに襲われ母親が泣きじゃくる。



そもそもドッキリ系ホラーとは
“ベクトル”が違うのが良くわかります。






そして3つめ。安心スッキリ、メタ演出
青年の
「ここで終わるには、劇場映画としての尺が足りない」
といったメタ発言に加え(確かに足りない)、
かなりのネタバレになるので、詳細は避けますが
映画を根底から否定するような、すさまじいメタ演出
こういう演出は、コメディに許されます。
コメディは喜“劇”であり、フィクションである事を
隠す努力は必要ないわけです。
逆に言えば、リアリティを殺す“フィクション宣言”です。



「散々生なましくやってきて、それはありかよ」
と、この辺りが非常に賛否両論を呼んでいるみたいですが、
僕はこの演出によって、非常に“ホッと”し、
なんだか清々しい後味で見終えることができ、、
「もう一度、見てもいいかな。」なんて、
リピーター精神まで芽生えました。
(このメタ演出までは、そんな気持ちは微塵も無かったです。)



ぶっとんだストーリーに融合された、トンでも展開(ラスト間近ならなお良し)
こそがカルト映画をカルト映画たらしめる“肝”でもあり、
この映画が、カルト的人気を呼んだ大きな要因だと思います。








〜まとめ〜
内容がボンと置いてあって、あとは観客を突き飛ばす。
この手の映画にはそんなものが、星の数ほどあります。
でもこの映画はその手のものとは、一線を画しています。
「心配しないで。落ち着いて。あくまでフィクションだから。」
と手をしっかり握って、突き飛ばさずに映画を案内してくれています。
……ただし理不尽な暴力を、これでもかと。
ですが、メタ表現で映画を再確認させる“余裕”を持たせる事で、
こちらも監督が投げかけた、不快感で終わらないメッセージを探れるわけです。



わざわざブログで取り上げたくなったのは、あくまで監督の主張や
“遊び心”がおふざけで終わらず、理解に値すると思ったからです。
(それ相応の、踏みたくもない場数を踏んだ上での評価でもあります。)
が、ショッキングな内容であることに変わりはないので、
オススメはいたしません……



〜関連映画〜
ファニーゲームU.S.A. [DVD]
同じ内容と同じ監督で取り直したらしい“ファニーゲームU.S.A”という
続編(リメイク?)もあるみたいです。



〜記事で紹介した映画〜
エイリアン [Blu-ray]
エイリアン [Blu-ray]


レザボア・ドッグス [DVD]
レザボア・ドッグス [DVD]


スカーフェイス 【プレミアム・ベスト・コレクション1800円】 [DVD]
スカーフェイス 【プレミアム・ベスト・コレクション1800円】 [DVD]