高丘親王航海記を読みました。
僕は同じ本を何度も読む癖がありません。最初に出会ったときの
“衝撃”“感動”は大抵、もう一度読み返すと薄れていてがっかりする事があるからです。
そんな僕がいずれまた読み返したい(読み返しても感動は薄れないだろう)と思い
手元に取っておいた数少ない本がこの、高丘親王航海記でした。
幼少期、父の寵妃だった藤原薬子から聞かされた天竺に憧れて、60才を越えて
唐から天竺を目指して旅にでた高丘親王の夢と現実が入り混じった幻想的なお話です。
あまり聞き慣れない地名や漢字が飛び交い、最初は戸惑いますが
終始もやがかかったような、おぼろげな文章はどんどんページを捲らせる魅力があります。
親王一行は旅の途中、様々な生き物に出会います。
人間の言葉をしゃべるジュゴン、食べた夢が糞の香りになる獏、男根に鈴がついた犬男……
妙なグロテクスさと、愛らしさを持った彼らは読んでいる私達を、不思議な世界へ誘います。
行く先々で眠りにつき、夢をみる親王にとってそれらはどこからが現実で、どこからが夢なのか曖昧です。
それが幻想的な世界に一層のもやをかけます。
造形や色彩が頭の中に綺麗に浮かぶのですが、下手に絵に起こしたら、それは
陳腐なものが出来上がるのがなんとなくわかります。
絵画的でありながら、絵画ではこの世界を容易には表現できる気がしないのです。
再読して、最初に読んだ感動が薄れるどころか新たな発見があり新鮮に読めました。
著者の渋沢龍彦は、本書が読売文学賞を受賞する前に亡くなったのですが、
高丘親王の過去への述懐や、死への姿勢が晩年の著者の精神を反映しているのだろうとうかがえます。
そこにこの物語は幻想的だけでは片付けられない深みがあるのだと思います。
ぜひ色んな方に読んでいただきたいです。
高丘親王航海記 (文春文庫) | |
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