かにみそにっき

作家。美術書などを中心に、本・絵本・映画についてのメモ。

月刊美術手帖を読む 〜vol61 2009年 12月〜

美術手帖 2009年 12月号 [雑誌]
美術手帖 2009年 12月号 [雑誌]


月刊美術手帖を読む 〜vol61 2009年 12月〜
特集はコムデギャルソン

常にファッションの最先端を行く、ギャルソンに迫る!

ぶっ飛んだファッション、支店ごとに雰囲気がガラッと違うショップ、
DMへの異常なまでのこだわり……
行き過ぎたファッションというものは、偏見を持って叩かれがちですが、
それでも何十年とギャルソンが続いてこれたのは、
常に新しいものを作ろうとする気持ちが常にあったからだと思います。
100Pに渡る写真中心の特集でそれがずしりと伝わってきました。





ARTIST INTERVIEW ウィリアムケントリッジ
南アフリカ出身のアーティストの日本での展示に合わせたインタビュー。
ケントリッジは、アナログ手法による映像作品も発表しているのですが、
彼が最新技術について述べている文が印象的だったので引用します。

写真のイメージを自在に加工できる「フォトショップ」のようなソフトにも
いえることですが、そうした革新的な技術は驚きをもたらすと同時に、
何かを失わせます。


ケントリッジはここで、アンリ・カルティエ=ブレッソンの名をあげます。
カルティエ=ブレッソンは“決定的瞬間”という言葉の産みの親でもある、
偉大な写真家です。大きな水たまりを、太った男が飛び越えようとジャンプする一瞬を
撮った写真を例に、こう言います。

当時はフォトショップがありませんでしたから、これは実際にあった光景なのでしょう。
でも、フォトショップの技術が浸透している私たちの眼からすると、
「これは本当にあった瞬間なのだろうか、画像を加工して後から人物をはめ込んだんじゃないか」
という疑問だって抱いてしまう。
技術が、私たちのものの見方を変化させている面もあるわけです。


それが良いとか悪いとか、一概には言えませんが、
私たちが、知らずうちに失っている“何か”は、とても大切な
とてもピュアな感覚であるような気がします。





その他気にったもの


・4つのテーマで読み解くアジア美術の現在
福岡アジアトリエンナーレの出品作からアジア美術を読み解く。
最後のアジア美術の今後についての見解が面白かった。


秋元康流アートのすすめ
AKBの篠田麻里子と共に岡本太郎美術館へ。
篠田さんがあまりに当たり障りのないコメントばかりで
秋元さんが一方的に話している形に。
彼女の為にBTを買ったファンは後悔しただろうな。


・Go Artists Go! Vol.41 堀 藍
油絵→版画に進んだ若手作家。
余白の美を油画科の人間の感覚で
版画に落とし込んだ作品は可愛らしい。


・アートの地殻変動 木下直之
明治以降の美術史の流れで、こぼれたもの、
排除されてきた美術を拾う、学芸員のお話。
木下さんの現代美術に対する意見

「現代と名前がついていながら、近代以降に確立した美術の制度の中に温存されている」


なかなか深い。






総評
ビジュアル重視なギャルソン特集におされ気味だからか、
他に際立ってパッとする情報がないので、やや地味な号に思えました。
ギャルソン特集にピンとくるか、否かがポイントだと思います。



アンリ・カルティエ=ブレッソン 瞬間の記憶 [DVD]
アンリ・カルティエ=ブレッソン 瞬間の記憶 [DVD]
確か水たまりジャンプはこれだったかと。
素晴らしい写真家です。


William Kentridge: Five Themes (San Francisco Museum of Modern Art)
William Kentridge: Five Themes (San Francisco Museum of Modern Art)