かにみそにっき

作家。美術書などを中心に、本・絵本・映画についてのメモ。

智恵子抄

智恵子抄

 

彫刻家であり詩人の高村光太郎が綴った詩集です。

父親は彫刻家として有名な高村光雲(「老猿」という猿の彫刻が有名)。

国語教科書的には、「僕の前に道はない」の「道程」が有名な光太郎*1

ですがこの智恵子抄は妻・智恵子と結婚する前から彼女が病気になり死別

した後までに書かれた詩を集めたものです。

 

この詩に興味を持ったのは、一昨年吉祥寺シアターで公演されていた

暗愚小傳(あんぐしょうでん)という舞台演劇。

高村光太郎家を舞台に、智恵子が元気だった新婚時代から死別後までを

四部構成で描いています。戯曲ノートを読むと、作者の平田オリザは実は

高村の詩は一部を除きあまり好みではないと書き述べているのですが。

 

さて、そんな経緯で手に取った”智恵子抄”。

率直な感想を述べると、オリザさんが述べた通り詩集の詩の部分はあまり

惹かれるものが少なかったです。それより興味を惹かれたのは、高村が智

恵子の死後2年経った後に記した「智恵子の半生」。気持ちの整理がある

程度ついたのか、丁寧に智恵子の半生が綴られていて、読んでいると胸を

刺されるような気持ちになりました。それだけに死後に書かれた詩(「智

恵子の半生」執筆以後の作品含む)は詩に落としこめていないような感情

の浮つきを感じてしまいました。詩人への憧れ(詩人なのですが……)を

作品から感じるのですが、この人の芸術表現の真骨頂はやはり造形作品の

方にあるのだなと再認識してしまいました。

 

さらに興味を惹かれたのが、この詩集の最後に収められた詩人・草野心平

が書き記した「悲しみは光と化す」です。これは生前の二人を知る草野心

平が、本人の文章からは伺えないような智恵子を失う(かもしれない)事

へ動揺する光太郎の心情を第三者目線から捉えています。、この詩集が補

完されたような思いになりました。

 

この文章には追記があり、3日後に高村光太郎は亡くなり草野心平が載せ

た追悼詩が収められています。

不世出の巨人はとうとう白い無機物になった。

で締められたこの文章を草野心平なき後の現代によむと、「智恵子抄」に

は追悼のおもいが入れ子のように入っているようで、いつの間にか読者で

ある自分がその入れ子の一部であるのだと思わされるのでした。

 

  

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*1:美術教科書的には「」や「鯰」が有名です。「鯰」は智恵子抄の中でも出てきます。